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第1話 「不思議な夢を見たような」(台本的な下書き)


暗くなった昇降口に愛紗が立っている。


「......暗いなぁ。知らない学校に来たみたい」

階段を登る愛紗。


「誰も居ない、こんな時間だもんね。
 ......あれ、でも何で私こんな時間にここに居るんだろう。
 忘れ物、取りに来ただけなんだけど......。
 何で夜に来たんだっけ」

(まぁ、いっか......)

廊下を進む愛紗。


「忘れ物は......確か......えっと......。
 ううーん? 教室に着いたら思い出す、よね。たぶん」

自分の教室の前に立つ愛紗。


「ここ、だよね?
 暗いせいかな、うちのクラスの教室じゃないみたいだ」

一歩踏み込み、愛紗が立ち止まる。


「......誰かいるの?」



教室の窓辺に、月明かりに照らされた李佳の姿が見える。


「......」

李佳が愛紗の方へ振り返り、じっと見つめる。


「あ、えっと。忘れ物取りに来たんだ。
 それが済んだらすぐ帰るから、気にしないで!」

(誰だっけ、この子......同級生には居なかった気がする。
 他のクラスの子? 私教室間違えてないよね?)

自分の席と思われる場所へ向かおうとする愛紗。


「......それはきっと、大切な忘れ物なのね。
 向こうでは訳あって取りに来れない、あなたの願望」

突然話しかけられた愛紗が動きを止める。


「え?」

愛紗が振り向いた先に李佳の姿はもうない。


「......あがっ!?」

直後、目の前に移動していた李佳が愛紗の首を掴む。


「く、くるし......」


「ちょっと荒っぽいけど、これが私のやり方だから許して。
 残念だけど、貴女の願望は叶えられないのよ。
 だから私が......消してあげる」


「......なん、なの」

愛紗の首を掴む李佳の右手が光を放つ。


「......!?」

(なに、これ...。
何かが私の中を巡って、何かを壊していくような。
痛いような、解放されるような、すごく変な気分......)


「あああああっ!!」


「......?」

李佳が目を細める。


「消えない......?」

直後、教室に男の声が響く

露谷 大樹
「李佳ちゃん、その子は違う!!」


「!?」

手を離そうとする李佳。しかしそこに愛紗の姿はなかった。


「......浄化された?」

腕を下ろす李佳。駆け寄る大樹。

露谷 大樹
「あれ、おかしいな......。
 僕には彼女が"イレギュラー"に感じたんだけど」


「私にはすぐに彼女が"ディザイア"だとわかった。
 現にこうして、浄化できたのだから間違いはないはず」

露谷 大樹
「そう、だよね。僕の勘違いだったみたいだ。
 何で見間違えたんだ......」

右手を見つめる李佳。


(......私の力を受けてすぐに浄化されなかった。
 あんなディザイアは初めてだ......それとも......?)

暗転。



夜の愛紗の部屋。愛紗がベッドに横になっている。


「......」

ボーッと部屋を見渡す愛紗。


「......夢、かぁ。リアルな夢だったな」

掴まれていた首元を触る愛紗。


「でもあの感触ははっきりまだ覚えてる。こんな事って......。
 っていうか......」

制服姿の自分に気付く愛紗。


「何で私制服なんだろ......。
 帰ってきてそのまま寝ちゃったんだっけ?
 うーん?」

考え込む愛紗の脳裏に何かがチラつく。


「!?」

首を必死に横に振る愛紗。


「寝よう!忘れよう!
 きっと明日になったら何か思い出す、うん!」

暗転。



昼の教室。席に座っている愛紗に友人2人が群がっている。


「そんでね、こう言うワケ!
 『俺のアームなら、お前という景品を一発でゲットできるんだがな』って!
 くさくない!? カッコイイこと言ってそうで言えてなくない!?」


「あはは、ちょっと捻った落とし文句を考えようとして滑稽になるパターンだね。
 SNSでネタにされちゃうやつかも」


「もううちの家族は大爆笑! さすがにないわー、って!
 愛紗もそう思うっしょ?」


「......」


「愛紗ちゃん?」


「......」


「......えい」

萌が持っていた冷たいペットボトルを愛紗の頬に当てる。


「ひゃあっ!」


「お、良かった。生きてるみたいだ」


「も、もー! 何するの萌ちゃん!」


「ごめんごめん! 上の空だったからさー」


「ただのしかばねのようだったよ」


「アタシ、愛紗が死んじゃったんだと思って心配になっちゃって...およよ」


「そんなわけないよー! でも、確かにちょっとボーッとしてたかも」


「考え事?」


「カレシと上手く行ってない感じ?」


「えっ!? 愛紗ちゃん、いつの間に彼氏できたの!?」

響くましろの声に、近くで同級生と談笑していた1人の男子が振り向く。

武部 真洋
「!?」

驚くましろに呆れ顔の愛紗。


「ましろちゃん、本気にしなくていいって」


「......あ、あーそっか。萌ちゃんの当てずっぽうかぁ。
 やられたー! 騙されたー! 不甲斐なしー!」

それを聞いてホッとする真洋。

男子生徒
「真洋、どうした?」

武部 真洋
「えっ!? い、いやなんでもねぇよ!」

真洋の反応を横目で見る萌。


「いやー違ったかー。 てっきりそうだと思ったんだけどなー」


「愛紗ちゃん可愛いもんなぁ。急にそうなってもおかしくないよね」

頬を赤くする愛紗。


「な、ないない! 私そういうの縁ないから!」


「悪いことは言わない、愛紗。
 アンタは早く年上の彼氏を作って幸せになるべき!」


「......なぜ年上限定?」


「ふむ、確かに愛紗ちゃんは男子と横に並ぶより
 先輩の少し後ろを恥ずかしそうに歩く後輩って感じが似合うかも」


「ええー!?」


「ましろ、からかうのはそれくらいにしといてやりな」


「元凶が言う台詞か!」

笑う萌とましろ。


「......そんで、愛紗ほんと今日どうしたの?
 悩み事ならアタシらが聞くし」


「うんうん」


「......いや、何て説明したらいいかわかんないんだけど。
 その、不思議な夢を見たような?
 それが朝からずっと気になっててね」


「どんな夢?」


「えっと......」

暗転。


「......っていう感じなんだけどね。
 真剣に考えちゃって馬鹿みたいだよね、あはは」


「ううん、全然おかしくないよ。
 愛紗ちゃん、それはきっとアレだよ。異世界へ冒険してたんだよ!」


「い、異世界!?」


「お、ましろに火を点けちゃったね、愛紗」


「えーっと......」


「だって愛紗ちゃん! そこはいつもと違う学校みたいだったんだよね!
 しかも見知らぬ女の子が右手から光を放って、
 自室に戻された時には制服姿!
 夢なんかじゃない、これは異世界転移モノだよ!
 すごいよ!羨ましい!」


「ゆ、夢だと思うよ?」


「異世界とかそーゆーのはわかんないけどさ、
 でも夢で済ませられなかったからこうして考えてたんでしょ?
 不思議体験じゃん、アタシも興味あるなー!」


「ううーん......」

(面白いことに興味もつ萌ちゃんと
 フィクション作品が大好きなましろちゃん、
 相談する相手を間違えたかもしれない......)

暗転。



保健室。保険医のミアと愛紗が話し合っている。


「......悪夢障害、かな?」


「それって、何ですか?」


「精神的な病気の一種。ストレスやトラウマ等が原因で
 苦しい、辛い夢を見て目を覚ましてしまうの。
 そして起きた時にはその夢をはっきりと覚えてる」


「なるほど、そう言われると当てはまるような気も......」


「夢で見たような経験、してない?
 例えば教室でクラスメイトに首を掴まれていじめられたとか」


「全くそんな経験はないです」


「じゃあ、逃げ出したくなるようなストレスに心当たりは?」


「特にないかと......」


「......」


「ごめんなさい、こんな変な相談......」


「いいのよ。私は心理カウンセラーだもの。
 貴女がそうやって悩んでる、それだけで私には話を聞く理由がある。
 解決してあげたいって思うから」


「ありがとうございます」


「ひとまず、今はまだ様子見ね。
 一時的なものなら良いのだけど、もし続くようなら
 対応が必要になるから、またここに来て」


「わかりました」

暗転。

保健室前にて、愛紗を待っていた萌とましろ。


「どーだった、愛紗?」


「一応色々話は聞けたけど......。
でもミア先生にもはっきりわからないみたい」


「そうなると、もうお手上げだね......」


「様子見してって言われたから、今は考えないことにするよ。
 眠ってない時は全然元気だから!」


「無理するなよー?」


「ありがと。大丈夫大丈夫!
 教室戻ろ!」

暗転。


(その時私自身が言ったとおり、
 眠っていない時は何事もなく1日が過ぎた。
 そう、眠っていない時は......)

暗くなった昇降口に愛紗が立っている。


(夜、自分の部屋で眠りについたはずなのに、
 こうして今日も私は夜の学校に立っている。
 今日はちゃんと寝る前のことを覚えてるから、間違いない)

「......」

深呼吸をする愛紗。


「......教室に行ってみよう」

(特に教室に用があるわけじゃなかった。
 でも、確かめたかったんだ。
 この夢がまたあの結末に向かうのかどうか)

暗転。

教室の前に立つ愛紗。


「今日もあの子、居るのかな」

教室の中へ一歩踏み込み、足を止める。


「居た......」

窓辺に立つ李佳がそっと振り向く。


「......」


「......っ!」

(昨日のことが蘇る。怖い......)

「あ、あの......」

(何て話しかけたら――)


「消えなさい」

右手に力を込め愛紗の方を睨む李佳。


「ひっ!」

(体が動かない。恐怖?
 何で、何でこの子は私をそんなに!)

飛びかかる李佳。防御姿勢を取る愛紗。


「まって!話を!!」

???
「ヴオオオオッ!」


「えっ......?」

不気味な声が上がり驚き顔を上げる愛紗。
李佳が愛紗の後ろに居た化物を右手で掴んでいる姿が目に入る。


「なに、これ......」

李佳の右手が輝き、掴まれていた化物が光りに包まれ消滅する。


「今の、何......?」

李佳が右手を下ろし、愛紗の方へ視線を向ける。


「貴女、本当に"イレギュラー"だったのね」


「イレ......ギュラー......?」

(昨日とは違う展開、飛び出した知らないワード。
 そして変わらず体で感じる、この空気。
 私はすぐに理解する。これは夢なんかじゃないんだと。
 ここもまた、現実なんだと......)

(何かが始まった。そう思った)

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